落語好き腐女子の酒日記(仮)

落語と酒が好きな腐女子の日記です。

落語家さんから弟子入りを勧められた話

この話は事実をなるべくそのまま書こうと思いましたが、特定を避けるため一部表現を濁していたりします。
まあ作り話だと思って気楽に読んでね〜。


何故だか分からないが、ある師匠が私のことを気に入ってくれていて時折誘われて二人でお茶やご飯に連れて行ってもらえた。
ある時に師匠にこんなことを言われた。
「君は落語が好きだろう?」
「はい。あ、もちろん。師匠のことも大好きですよ」
「君が落語家になれば、とても面白いと思うんだが、どうだ?」
あ、これは「弟子になれ」という流れか。
そう思いなんて返事しようか考えていると
「俺はもう弟子はとらない。だから……○○に弟子入りしないか?」

○○師匠は大阪の若手の方だ。私もファンだが生で聴いたことは数えるくらいしかない。
しかし、師匠は
「上方で成功して帰ってくる方が東京で修業するよりカッコいい」
「大阪は東京のような階級制度でないから実力さえあれば、どんどん売れるぞ」
などと言ってその場で大阪の落語家さんに電話をして「二ヶ月後に合わせたい人がいる」と告げた。
ちなみに電話越しの落語家さんが何て言ってたかは分からない。

約束の日の当日、会場の入口に師匠が出てきて言った。
「高座後にね」
師匠の出番はトリだ。
つまり終演後に楽屋に来いという意味か。
終演後、陰で師匠が出てくるのを待つ。
しかし師匠はそのまま用意したタクシーに乗っていく。
タクシーに乗る師匠一行を陰から見ることしかできなかった。
(え?どうすればいいの?私裏切られた?)
そう思い、酒飲んで帰ろうと思ったがもう一人の私が
(いや、でもこのまま帰っては失礼になる)と言う。
電話をするも通じないので、師匠が打ち上げで使っている店(タクシーの方向からして察しがついた)に行く。
完全予約制で入ることができない店なので、少し離れた位置の塀沿いから師匠が出てくるのをじっと待つ。
張り込みである。

張り込みと言えば牛乳とあんパンが定番であるが、そこまで気が回らず普通におにぎりと伊右衛門をコンビニで買い、師匠達が出てくるのを陰からひたすら待つ私。
地元の中学生らしき四人組が私のことをジロジロ見てきたが気にする余裕もない。

(っていうか師匠が出てきたところで何て言うんだ)
そう思ったがここまできたらやるしかない。
店から出てきた師匠の一行を見つける。
そっと後をついて行く私。
完全に不審者である。
一瞬人混みで見失い諦めるも、奇跡的に改札前で師匠の一行を見つけた。
改札を抜けて一人になった師匠に声をかけた。


「あ、あの、師匠」
「なんで来なかったの?」
師匠は少し驚いた表情を浮かべるも、怒っている様子もなかった。
「いや、終演後急いでタクシー乗られて行ったので」
もう言い訳している時点で私はダメである。
すると師匠は
「俺はあいつ(上方の落語家さん)の高座後、君に楽屋に来いって言ったんだ。君が楽屋に来れば全部段取りは整えていたんだ。そうすれば他の客を味方につけてあいつが君を弟子にせざるを得ない状況にできたんだ」


パニクった私は今思うと最低なことを口走った。

「えっと……私……どうすればいいんでしょう?」

いつだって優しい口調の師匠が
「知らん。自分で考えろ」

ごもっともである。
そう言って師匠はエスカレーターを降りて駅のホームへと向かった。

ドラマや小説のように「待ってください!」とか言って追いかければ良かったのかもしれないが、追いかけたところで何と言えばいいのか分からない。
っていうか夕方から友達と飲みに行く約束をしていたので今からダッシュで新宿行きの電車乗らないと待ち合わせ時間に遅刻してしまう(こっちを優先する時点でもうダメである)。


連絡したものの返事はなく、この出来事から一ヶ月ほど経った先日、その師匠の会へ行ってきた。

 


師匠は完全に私に言ったことを忘れているようだった。