落語好き腐女子の酒日記(仮)

落語と酒が好きな腐女子の日記です。

『まえへ』

私のiPhoneの画面はバキバキに割れている。

修理するなり買い換えるなりすれば良いのは分かってはいるが、あいにくそんな金はない。

それに、慣れてしまえばさほどに気にならない。

しかし、画面が割れている影響か、タッチしても反応が時々悪かったり、触ってもない場所が勝手に反応してしまうことがある。

 

少し前の出来事である。

仕事の休憩中、いつものように私はツイッターを眺めていた。

私のツイッターは落語会の感想をよく書くのでフォロワーも落語ファンの方か落語家さんが殆どである。

すると一人の落語家さんのツイートが目にとまった。

本人が特定されると申し訳ないので名前は伏せるが、以下のような内容だった。

 

『落語家を辞めることになりました。まだ今後どうするか決めていませんが、今までお世話になった皆さんありがとうございました』

 

まだ一度も聴いたことのない落語家さんであったが、彼のプロフィールページを開くと同い年であることがわかった。

同い年の落語家さんが廃業して去って行くのは何だか切ないな、と思いつつ彼の過去のツイートを見返していると、あっという間に休憩時間が終わるところだったので、慌ててスマホをしまって仕事に戻った。

 

仕事を終え再びツイッターを開くと彼の廃業報告のツイート画面になっており、何故かリプライ(返信)欄に『まえへ』と入力されていた。

多分、慌ててiPhoneをしまったときに指が触れたか何かで誤作動を起こしてしまったのだろう。

偶然とはいえ、何か意味深な応援の言葉になってしまっている。

(うわっ、やべえ)

焦って削除しようとした私は間違って送信ボタンを押してしまった。

(あああああっ!!)

と心の中で絶叫する。

もし彼がリアルタイムでツイッターを開いていたら見ず知らずの人から『まえへ』なんてカッコつけたような励ましの言葉を見てドン引きするだろう。

慌ててツイートの削除ボタンを押した。

ほんの数秒のことだったが私にはとても長く感じた。

ツイートが確かに削除されたことを確認してホッと胸をなでおろす。

 

彼と会うことは多分ないだろうが、同い年の落語家の道を志した青年に自分が輝ける場所を見つけられるように、と一瞬だけ目を閉じて本気で祈った。