前座クンの秘密を知った話
前座……それは落語家の身分の中でも一番下の階級である。
365日休むことなく師匠方の身の回りのお世話をする日々を三年から五年ほど続ける。
この修業期間を経て『二ツ目』という身分に昇格し、ゆくゆくは『真打』という周りから「師匠!」と呼ばれる身分になるのである。
さて、一月後半の某日のことである。
落語協会の前座と落語芸術協会の前座のバスケットボール対決の得点係を何故か私がやることになった。
休憩タイムに入り、私が更衣室のロッカーに行くと見覚えのある前座クンも汗をかいたからかユニフォームを脱ぐ瞬間だった。
(うわ、ちょっと気まずいな)
と思いつつも私も同世代男性の体に興味を持ってしまいチラッと横目で見る。
彼の胸は少し膨らんでおり、白い布で覆われていた。
その白い布は世間一般にブラジャーと呼ばれる女性の下着だった。
「え!?」
混乱した私は思わず声を上げた。
彼、いや彼女は慌ててユニフォームを着直すと、私に近づいて
「師匠が女だと弟子にとってくれないから男のフリをしているの。絶対に言わないで」
と言った。
なるほど。女流の落語家が増えてきたとは言え、まだ女性の噺家に反対している人はいるらしい。だけど男のフリしてまで入門するなんて彼女は相当覚悟の強い人なんだろう。
少し怯えたような表情をしつつも、口元に指を当てて「しーっ」のポーズをする彼女に男にはない色気を感じたと同時に
(漫画みたいな話だな……)
……と思ったところで目が覚めた。
まあ、お察しだった方も多いでしょうが夢オチである。
ただあまりに衝撃的な夢だったのですぐさまメモをした。
そして簡潔にツイッターにこの夢の内容を書いたところ、多くの人からイイねをもらえたので、この設定で小説を書こうとしたが数ページで飽きて投げ出した。
ちなみに彼は本当に男の子だと思う。
事実ヒョロッとした外見だし、女々しい雰囲気がある。しかし本名を調べたら男らしい名前だし、彼の声も完全に男性の声だ。
彼が女性であるというのは私の夢の中でのことだけだ。
だけど彼の高座に遭遇すると、あの時夢で見た白いブラジャー姿が私の頭をよぎるのであった。